新国立競技場の設計に関するさまざまな疑問

10月11日の新国立競技場について考えるシンポジウム

                        (新国立競技場を考えるシンポジウム実行委員会主催) www.jia.or.jp/resources/events/000/142/0000142/file/YTjCbShW.pdf
大盛況でした。数週間前から異様な盛りあがりで、会場が日本青年館に変更されていたにも拘わらず、中ホール350人は開始1時間前に満員となり、動画配信による第2会場、建築家会館ホール200人も満員、第3会場の同会館ライブラリーも超満員でした。

私にしては異例の20分前に日本青年館に到着したのですが、建築家会館に誘導され、第3会場になんとか滑り込めました。厚い絨毯の上に足を投げ出して座り、丸テーブルにパソコンを広げて聴講できたことは、逆に幸運でもありました。

動画配信があるなら家にいても同じではありましたが、負け惜しみではなく、こういう題材であれだけの熱気という一種異様な事態を目撃したことは価値があったと思います。当日はざわつきもあり、良く理解できなかったこと(特に宮台真司さんの社会学は難解)を今後動画で確認したいと思います。動画は以下のURLから。 www.ustream.tv/recorded/39735449

テーマは2020年オリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場建設をめぐる歴史的、社会学的、建築学的考察。
建築家の槇文彦さんが今回のコンペで選考されたザハ案に「歴史的文脈」の中から異を唱え、またたく間に波及した動きです。

そもそも神宮外苑周辺地域の歴史は明治天皇と軍隊と占領軍の歴史ですが、 これについては、都政新報に連載中の「新東京都市計画物語」(越澤明北大教授著)に詳述があります。  www.tosei-d.com/

イラク出身イギリス在住の女性建築家、ザハ・ハディトの設計は、三葉虫ともゴキブリともヘルメットとも形容される曲線的な鳥瞰図のイメージ画が話題になっていますが、模型もなく、周辺建物との関係など実態はよくわかりません。通常こういうコンペでは必ず模型で検証されるのですが、今回は選考側がイメージ画しか求めなかったと言われています。

巨大な開閉式ドーム競技場ですが、選考当初からオリンピック誘致の政治的思惑からか設計には外国人を採用することが決まっていたという話も聞きます。

そういう中で専門家も市民も抜きにして政治的に非公開で決められた、その決め方自体にまず大きな問題があると槇先生は指摘しています。
日本は国から自治体までほぼおしなべて、合議で合意を図ることより、論議を呼びそうな問題をうまく隠してトップの意のままに物事を決定することを尊ぶ風土をもっています。いわく上意下達、いわく知らしむべからず寄らしむべし。

そして次なる指摘は、建築、農学、造林の碩学の英知を結集して本殿、内苑、外苑、参道など一体的に哲学を持って設計された明治神宮という風土に相応しくないボリューム、ゆとり、距離感。

その他にも疑問や問題点は多々あります。景観上最悪の事例として文京区の銅御殿となりのマンションや後楽園庭園となりのドームがとりあげられました。私としては区役所庁舎タワーも推薦したいところでした。
まずは、絵画館など東京の誇る美しい景観を台無しにする周囲と調和しない巨大すぎるスケールの建物はやめてほしい!

動画での検証はまだなので不正確ですが、以下は当日印象に残った言葉から。
皆さまもぜひご自分でJIAのHPから情報を得てお考えください。 www.jia.or.jp/

・ これを機会に建築とはなにか、みんなが考えるようになればよい。

・ 専門家の知恵を結集するのはもちろんだが、専門家にはわからない、生活している市民にしかわからないことがある。これからの時代、リスクがさまざまに張り巡らされる。専門家に任せておいても専門家は責任をとれない。

・ 審議会は日本では機能していない。日本では民主主義が機能していない。社会学から見て民主主義とは何か。これぞ民主主義という代官山七曲の話。ケヤキの落ち葉が面倒で非効率だから伐採するのではなく、落ち葉=広葉樹のあるまち即ち代官山に住むことの意義、という住民の合意で伐採しないことにした。
多数決ではない合意。

・ 法で(景観法があっても)文化財が守れない日本の制度的欠陥。外国ではあり得ないことだが、重要文化財の隣りに巨大なものが建つ。文京区では銅御殿の至近距離に高層マンション、小石川後楽園庭園から見える東京ドーム球場の屋根。 アーバンデザインの不在。 まちを歩行者スケールで見るという景観視点もある。面出薫さん設計の表参道アカリウム。

・ 都市計画の必要。 日本の特殊性は毎回ちゃぶ台返しでこれまで来たこと。成熟社会のオリンピックをどう見せるか。 ロンドンオリンピックに学ぶこと。江戸・東京の水と川の文化に学ぶこと。

・ ベアードキャリコットの環境哲学の思想。自然や土地を生き物として多元的にとらえる。自分たちで評価できないものは将来世代にどう映るかの視点で考える。

・ 東京の高密度の特殊性。外苑ではなく東京という場所から考えると、日本的バラックにも一定の同一性、ルール性がある。

・ 外苑にスポーツ施設がすでにあることの説明は?神宮外苑の設計段階から国民に開かれたスポーツ施設という思想はある。国立競技場以外は明治神宮のものだが、 神宮球場や秩父宮ラグビー場はすでに市民権を得ている。

・ 今後の展開は?これだけのメディアや市民が結集した声がどこにどう届けられるのか。 反対運動に直結するわけではないが、 JIAが引き受けて 基本的には運動になっていくのだろう。

これと同じ投稿をフェイスブックに出したところ、友人がハーバード大学グラジュエイトスクールでのザハの講演動画を送ってくれました。1:01頃で新国立競技場にも触れています。こちらで周辺との位置関係がやや詳しくわかります。

www.youtube.com/watch?v=DhHiYU3kL0E&list=TLS47vUM5yVnAJk-IttQYTHPpquQOCX72q

いずれにしても、槇先生がこれだけ多くの人が共感する提言をしてくれたこと、そしてJIAが広く伝えるシンポジウムを企画してくれたことに感謝します。今後のJIAとしての動きについてはやや弱々しく、国の選考委員会の案に対して、団体として真っ向から反対運動はできないと宣言したように感じました。専門家集団は提言がせいいっぱい、あとは市民運動だと投げかけられたような気もします。しかしオーソリティとして正面突破は無理でも側面からなんらかの働きかけを考えていることを期待します。さて、市民としてどんなことができるか?考えましょう。

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